日本事務機新聞「清論濁論」2019年7月22日

《コラムの転記》

昨年本紙で事務機販売の現場を描いた小説『もう一つの沖縄戦』を紹介した( 著者= 新納昭彦氏)。その前は杉山大二郎氏の『至高の営業』『ザ・マネジメント』を紹介した。新納氏も杉山氏も販売の最前線を体験している▼これまで事務機業界の先達が自らの経験をもとに、ビジネス書を執筆することは多くみられたが、小説という形をとった書物は見たことがなかった。現実としてのビジネスと、フィクションの小説は相容れないものだと思っていた▼複合機メーカーを主対象として成長した技術派遣会社ジャパニアスの創業者、西川三郎氏は小説家としても知られ、著書『小説家の経営術』で「経営者には物事の全体を見渡す小説家的想像力が必要だ」と述べ、ビジネスと小説の共通点を浮き彫りにしている▼小説にもビジョンは大切だという。「登場人物の行動が強い動機と欲求に裏打ちされていなければならない」「ともに働く人々一人ひとりがもっているストーリーに想いを巡らして」▼小説家にとって読者は顧客。読後感は顧客満足度にほかならず、どのように感じてほしいのか、商品戦略や営業戦略の仕方(ストーリー) が決まっていく、と▼事実に基づいた小説を多数世に送った山崎豊子氏は、ノンフィクションの形をとらなかった理由を「フィクションのほうが真実が伝わる」と語っていたのを思い出した。